両手取引(囲い込みの可能性)

両手取引(りょうてとりひき)とは、不動産売買において1つの不動産仲介会社が、売主(売りたい人)と買主(買いたい人)の両方の仲介を同時に担当し、双方からそれぞれ仲介手数料を受け取る取引形態のことです。
日本の不動産業界では極めて広く行われている一般的な手法ですが、海外(特にアメリカなど)では「利益相反(りえきそうはん)」の観点から原則禁止、あるいは厳しく規制されているケースが多い取引でもあります。
本稿では、両手取引の具体的な仕組みや、もう1つの取引形態である「片手取引」との違い、両手取引がもたらすメリット・デメリット、そして日本で大きな問題となっている「囲い込み」という悪質な実態まで解説します。

1. 両手取引の基礎知識と仕組み
不動産を売買する際、通常は不動産会社に仲介を依頼します。このときの仲介の形には、大きく分けて「両手取引」と「片手取引」の2種類があります。
① 両手取引の仕組み
例えば、Aさんが「自分のマンションを3,000万円で売りたい」と考え、不動産会社Xに売却の仲介を依頼(媒介契約を締結)したとします。
一方で、Bさんが「3,000万円くらいでマンションを買いたい」と、同じ不動産会社Xに相談に来ました。
不動産会社Xが、AさんのマンションをBさんに紹介し、無事に売買契約が成立した場合、不動産会社Xは売主のAさんと買主のBさんの両方の担当者となります。これが「両手取引」です。
このとき、不動産会社Xが受け取る仲介手数料は以下のようになります。
  • 売主Aさんから: 法定上限(3,000万円 × 3% + 6万円 + 消費税)
  • 買主Bさんから: 法定上限(3,000万円 × 3% + 6万円 + 消費税)
1回の売買契約(取引)で、売主と買主の双方から合計2倍の仲介手数料を得られるため、不動産会社にとっては非常に収益性の高い、魅力的なビジネスモデルとなります。
② 片手取引(共同仲介)との違い
これに対して「片手取引」とは、売主と買主のそれぞれに別々の不動産会社がつく取引形態を指します。
先ほどの例で言えば、売主Aさんは不動産会社Xに依頼し、買主Bさんは不動産会社Yに依頼していた場合です。不動産会社XとYが協力して取引を成立させる(共同仲介)ため、不動産会社Xは売主Aさんからのみ、不動産会社Yは買主Bさんからのみ仲介手数料を受け取ります。不動産会社側から見ると、手数料が片方からしか入らないため「片手取引」と呼ばれます。

2. なぜ両手取引は「利益相反」と言われるのか?
両手取引の最大の問題点は、構造上「利益相反(りえきそうはん)」が避けられないという点です。利益相反とは、一方の利益が他方の不利益になる状態を指します。
不動産売買において、売主と買主の要望は本来、真っ向から対立するものです。
  • 売主の願い: 「1円でも高く、少しでも良い条件で売りたい」
  • 買主の願い: 「1円でも安く、少しでも有利な条件で買いたい」
両手取引を行う不動産会社は、この相反する願いを持つ2人の間に1社だけで立つことになります。
もし、買主Bさんから「2,800万円に値引きしてくれたら買います」という交渉(買付申込)が入ったとします。
  • 売主の味方であれば: 「3,000万円の価値があるので、値引きに応じる必要はありません」と突っぱねる、あるいはより高値で買ってくれる別の買主を探すべきです。
  • 買主の味方であれば: 「売主に交渉して、なんとか2,800万円まで下げさせます」と動くべきです。
しかし、両手取引の不動産会社はどちらの味方も選べません。それどころか、不動産会社の本音としては「多少値引きしてでも、今ここで売買契約を成立させて、両方から手数料(両手)をもらいたい」というインセンティブが働きやすくなります。その結果、売主に無理な値引きを勧めたり、買主に不利な条件を飲ませたりするリスクが生じるのです。

3. 両手取引のメリット
批判されがちな両手取引ですが、すべてのケースが悪というわけではありません。売主・買主双方にとって、以下のような実務上のメリットも存在します。
① 交渉や手続きがスムーズに進む
窓口が1つの不動産会社に一元化されているため、連絡のタイムラグや意思疎通のすれ違いが最小限に抑えられます。
片手取引(2社間)の場合、「買主→買主側不動産会社→売主側不動産会社→売主」と伝言ゲームが発生するため、質問の回答や条件交渉に数日かかることが珍しくありません。両手取引であれば、社内(あるいは同一の担当者内)で確認が完結するため、スピード感を持った取引が可能です。
② 条件の擦り合わせ(落としどころ)が見つけやすい
同じ担当者が双方の「本音」を把握しているため、お互いが妥協できる「落としどころ」を早く見つけることができます。例えば、「価格は売主の希望通りにする代わりに、引き渡し時期は買主の都合に合わせる」「多少の値引きに応じる代わりに、現況有姿(修繕なし)での引き渡しとする」といった、柔軟なパッケージ提案がされやすくなります。

4. 両手取引のデメリットとリスク
一方で、両手取引には無視できない大きなデメリットとリスクが存在します。
① 価格交渉で不利益を被る可能性がある
前述の「利益相反」により、不動産会社が取引の成立(=自社のコミッション確定)を最優先させることがあります。
特に売主側は、早く契約を決めたい不動産会社から「これ以上待っても買い手は現れません。この値引きを受け入れましょう」と、相場より低い価格での売却を促されるリスクがあります。
② 物件の欠陥(心理的瑕疵など)が甘く扱われるリスク
買主側にとってもリスクがあります。不動産会社としては、売主から預かっている物件を早く売りたいため、物件のマイナス情報(過去の雨漏り、周辺の騒音トラブル、近隣の忌避施設など)について、法律上の重要事項説明義務に違反しない範囲で、あえて積極的に説明しない(トーンダウンさせて伝える)という不誠実な対応を取られる危険性があります。

5. 最大の問題:悪質な「囲い込み」の実態
両手取引そのものは法律で認められていますが、両手取引を「狙う」あまりに発生する「囲い込み(かこいこみ)」という行為が、日本の不動産業界で長年非常に大きな問題となっています。
① 囲い込みとは?
売主から売却を依頼された不動産会社が、他社から「その物件を買いたいお客さんがいるので紹介してください」と問い合わせを受けても、嘘をついて断る行為のことです。
通常、売却依頼を受けた物件は「REINS(レインズ:不動産流通標準情報システム)」という全国の不動産会社が閲覧できるネットワークに登録され、日本中の不動産会社が買主を探せる仕組みになっています。
しかし、売主側の不動産会社が「両手取引」で2倍の手数料を稼ぎたいと考えた場合、他社(片手取引になってしまう相手)に物件を渡したくありません。そのため、他社から電話がかかってきても、以下のような嘘をついて紹介を拒否します。
  • 「あ、その物件は今、他のお客様から申し込みが入って交渉中です」
  • 「売り主様のご都合で、今週は内見(見学)ができません」
このようにして物件を市場から「囲い込み」、自社で直接見つけてきた買主(両手取引ができる相手)が現れるまで、物件を隠し続けるのです。
② 囲い込みが売主に与える大損害
囲い込みをされると、売主は甚大な不利益を被ります。
他社には「もっと高値で買いたい」という優良な買主がいたかもしれないのに、売主側の不動産会社がそれを勝手にシャットアウトしてしまうからです。
その結果、売れるまでに長い時間がかかり、最終的には「売れないので価格を下げましょう」と提案され、相場より数百万円も安い価格で売却せざるを得なくなるケースが多発しています。これは売主に対する完全な背信行為です。
現在では、レインズのステータス管理機能(契約状況をオンラインで確認できる仕組み)の導入などにより、囲い込みへの対策が進められていますが、手口が巧妙化しており、未だに完全な撲滅には至っていません。

6. トラブルを防ぐための対策と心構え
不動産売買で損をしないために、一般の消費者は以下のポイントを押さえておく必要があります。
① 売主としての対策
  • レインズの「登録証明書」とステータスをチェックする:
    専任媒介契約を結んだ場合、不動産会社からレインズの登録証明書が渡されます。そこに記載されたIDとパスワードを使って、自分の物件が「公開中」になっているか、勝手に「商談中」などにされて囲い込まれていないかを定期的に確認できます。

② 買主としての対策
  • ポータルサイトで見つけた物件を、別の不動産会社に相談してみる:
    不動産ポータルサイトで気になる物件を見つけた際、掲載している会社に直接問い合わせると、自動的に「両手取引」の形になります。もしその会社が信頼できるか不安な場合は、自分が信頼している別の不動産会社に「この物件の仲介に入ってもらえますか?」と相談(片手取引を依頼)することができます。

8. まとめ
両手取引は、「手続きのスムーズさ」や「手数料交渉の余地」といったメリットがある一方で、「利益相反による不利益」や「囲い込み」という非常に大きなリスクをはらんだ取引形態です。
日本で不動産売買を行う以上、両手取引に遭遇する確率は非常に高いと言えます。大切なのは、両手取引そのものを過度に恐れるのではなく、「不動産会社が自社の利益(両手手数料)のために、自分に不利な提案をしていないか」を見極める知識を持つことです。
信頼できる誠実な不動産会社・担当者を選び、取引の透明性を求めながら進めていくことが、不動産売買を成功させるための最大の鍵となります。

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