不動産売却する際の買主からの購入申込書はどうすればいい

2026年10月10日

不動産を売却する際、買主から届く「購入申込書(買付証明書)」は、売却活動における最初の大きな関門であり、成約に向けた重要なスタートラインです。

この申込書が届いたからといって、すぐに売買契約が成立するわけではありません 。しかし、ここでの対応を誤ると、好条件の買主を逃してしまったり、後々の契約トラブルに発展したりするリスクがあります。

本記事では、購入申込書を受け取った売主が「何をチェックすべきか」「どう対応・交渉すべきか」「契約までの具体的な流れと注意点」について、解説します。


1. 購入申込書(買付証明書)とは何か?

購入申込書(業者によっては「買付証明書」とも呼びます)は、買主が「この物件を、この条件で購入したい」という意思を正式に表明する書類です。

💡 最も重要な大前提:法的拘束力はない

購入申込書には、原則として法的拘束力がありません。

    • 買主は、申込書を提出した後でも、ペナルティ(違約金など)なしで申し込みを撤回できます。
    • 売主側も、申し出を断ったり、別の買主を優先したりすることが可能です。
    • 手付金の支払いも、この段階では発生しません。

「それなら意味がないのでは?」と思うかもしれませんが、そうではありません。これは「本気で買う意思がある」という証明であり、これをもとに売主と買主が具体的な契約条件の交渉(すり合わせ)をスタートする合図になります。


2. 購入申込書が届いたら最初にチェックすべき「5つの項目」

買主から申し込みが入ると、不動産会社の担当者から連絡があり、申込書の控えが提示されます。売主は、単に「価格」を見るだけでなく、以下の5つのポイントを綿密に確認する必要があります。

① 購入希望価格(指値の有無)

売主が売り出している価格(売り出し価格)に対して、買主がいくらで買いたいと言っているかを確認します。

    • 満額(売り出し価格通り): 最高の条件です。
    • 指値(値下げ交渉): 「〇〇万円値引きしてほしい」という要望です。中古不動産流通では、端数の切り捨て(例:3,180万円の物件を3,100万円に)などの値下げ交渉は日常茶飯事です。

② 手付金の額

売買契約時に買主が支払う「手付金」の金額です。一般的には物件価格の5%〜10%が目安となります。

    • 手付金があまりにも少額(例:5万円、10万円など)の場合、契約後に買主が「手付放棄による契約解除」を簡単にしやすくなるため、リスクが高まります。適切な金額が設定されているか確認しましょう。

③ 住宅ローンの利用有無と「ローン特約」

買主が購入資金をどう調達するかを確認します。

    • 現金購入: ローン審査の手間がないため、非常に確実性が高く、売主にとっては有利な買主です。
    • ローン利用: ほとんどの買主がこれに該当します。この場合、申込書に「ローン特約(融資利用の特約)」が記載されているか、またその「解除期日」がいつかを必ずチェックします。

      ※ローン特約とは:万が一、買主が銀行のローン審査に落ちてしまった場合、契約を白紙に戻し、手付金も全額返金するという買主保護の条項です。

④ 契約希望日・引渡し希望時期

    • 契約日: 通常、申込書提出から1週間〜2週間以内に設定されます。
    • 引渡し日: 買主の引っ越し希望時期や、売主自身の買い替え(住み替え)スケジュールと合致しているかを確認します。

⑤ 買主の属性(どんな人か)

不動産会社の担当者を通じて、買主の背景(職業、勤続年数、家族構成、現在の住まいなど)をヒアリングします。特に住宅ローンを利用する場合、「すでに事前審査(仮審査)を通っているか」は、その後の契約がスムーズに進むかを占う最重要ポイントです。


3. 購入申込書への「3つの対応パターン」

チェックした結果をもとに、売主は次の3つのいずれかのスタンスを決めることになります。

パターンA:条件をすべて受け入れ「契約」に進む

価格も満額、引渡し時期も希望通りであれば、何も問題ありません。すぐに売買契約の準備(必要書類の収集、契約日の確定)へ進みます。

パターンB:条件が合わないため「断る」

例えば、以下のようなケースでは、申し込みを断るケースがあります。

    • 想定を大幅に超える過度な値下げ要求(指値)がある
    • 引渡し時期が半年以上先など、売主のスケジュールに全く合わない
    • 複数から同時に申し込みが入っており、より好条件の別の人を選びたい

断る際は、不動産会社を通じて「今回の条件ではお受けできません」と明確に伝えてもらえば大丈夫です。

パターンC:条件をすり合わせる「売渡承諾書の提出」

「価格は下げられないが、引渡し時期なら合わせられる」「100万円の値下げは無理だが、50万円までなら歩み寄れる」といった場合、売主側から「この条件なら売ります」という条件を提示します。
この時に売主が発行する書面を「売渡承諾書(うりわたししょうだくしょ)」と呼びます。


4. 値下げ交渉(指値)の上手な切り抜け方・交渉術

購入申込書で最も頭を悩ませるのが「値下げ交渉」です。売主としては1円でも高く売りたいのが本音ですが、頑なに拒否して買主を逃すと、次の買い手が何ヶ月も現れないリスクがあります。以下の戦略的な交渉を検討しましょう。

    • 「中間の価格」を提示する
        • (例)3,000万円で売り出し、買主から「2,800万円」の希望が来た場合。
        • (対策)「間をとって2,900万円ではいかがでしょうか」と打診する。これで決着するケースは非常に多いです。

    • 条件付きで値下げを受け入れる
        • (例)「200万円の値下げに応じる代わりに、以下の条件をのんでほしい」と交渉します。
        • (条件例)「室内のクリーニングは行わず現況渡しのままとする」「引き渡し後の契約不適合責任(雨漏りなどの保証)を免除してもらう」「引渡し時期を売主の都合(買い替え先が決まるまで)に合わせてもらう」

    • あらかじめ「交渉幅」を想定しておく
        • 売り出し価格を設定する段階で、あらかじめ「100万円くらいは交渉が入るだろう」と見込んで価格を高めに設定しておくのが不動産売却のセオリーです。想定内の値引きであれば、スムーズに応じて早期売却を確定させるのも賢い選択です。


5. 複数から同時に申し込みが入った場合の優先順位

人気の物件や、相場より安い物件の場合、同じタイミングで2組・3組の買主から購入申込書が届くことがあります。この時、必ずしも「先着順(一番早く出した人)」で選ぶ必要はありません。

売主は、以下の基準を総合的に判断して、最も有利な買主を選ぶ権利があります。

優先順位 判断基準の要素 理由・メリット
第1位 価格が高い人(満額など) 売主の手残り金額が最も多くなるため。
第2位 資金計画が確実な人(現金購入・ローン内定済) 契約後の「ローンキャンセル」で白紙に戻るリスクが極めて低いため。
第3位 引渡し条件が合う人 住み替え先のスケジュールと一致し、仮住まい費用などが浮くため。
第4位 申込書の提出が早かった人 条件が全く同じ(同価格・同資金計画)であれば、先着順で誠意に応じる。

※ただし、不動産会社によっては独自のルールや「一番手を優先して交渉を進める」という慣例を重視する場合もあるため、必ず担当と相談しながら進めてください。


6. 購入申込書から「売買契約」までの流れと注意点

購入申込書の条件に双方が合意したら、いよいよ「売買契約(約1〜2週間後)」に向けて動きます。この期間は非常に重要で、トラブルが起きやすい時期でもあります。

① 物件状況報告書・設備表の作成

売主は、家の中に雨漏りがないか、シロアリの被害がないか、給湯器やエアコンなどの設備が壊れていないかを正確に書類に記入し、買主に開示します。

    • 注意点: 不具合を隠して契約すると、引き渡し後に「契約不適合責任」を問われ、修復費用を請求されたり契約解除されたりします。些細なことでも必ず正直に記入してください。

② 買主の「住宅ローン事前審査」の確認

申込書提出の段階で事前審査が通っていない場合、売買契約日までに必ず結果を出してもらうよう不動産会社に促します。ここが曖昧なまま契約すると、後から白紙解約になり、時間のロスになる可能性があります。

③ 契約成立までは「売り出し活動」を完全には止めない

購入申込書が届いた段階で、ポータルサイト(SUUMOなど)の掲載を完全に止めてしまうのは危険です。前述の通り、申込書に法的拘束力はないため、契約直前で「やっぱり辞めます」と言われるリスク(ドタキャン)があるからです。

    • 対策: 「現在、一番手の方と交渉・契約準備中です」というステータスにしつつ、万が一のキャンセルに備えて、二番手以降の問い合わせを受け付けられる状態をキープしておくのが一般的です。


7. まとめ:売主が取るべき賢いスタンス

買主からの購入申込書は、「売却活動のゴール」ではなく「最終交渉のスタート」です。

大切なのは、以下の3点です。

    1. 感情的にならない: 予想より低い価格(指値)を提示されても、怒ったり気を悪くしたりせず、「相手の予算や本気度はどのくらいか」を冷静に不動産会社と分析する。
    2. トータルでの損得を考える: 数十万円の値下げを拒んだ結果、その後半年間売れ残り、結果的に固定資産税や維持費、さらなる値下げで大損することもあります。「時期」と「価格」のバランスを見極めましょう。
    3. 信頼できる担当(不動産会社)を味方につける: 買主側との直接交渉を行うのは不動産会社です。売主の利益を第一に考え、タフな交渉をしてくれる担当者かどうかが、最終的な売却成功の鍵を握ります。

申込書が届いたら、ぜひ本記事のチェックリストを活用し、焦らず一歩ずつ確実な契約へと進めていってください。

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